アートと食の美味しい関係 〜バー編〜

Thursday 25 March 2021

 芸術都市ロンドンにとって、アートと食は切っても切れない関係であることはレストラン編で述べましたが、バーも例外ではありません。ロンドンには、伝統あるジェントルマンズクラブを彷彿させるクラシックで格式高いバーから、アールデコ・アールヌーボー様式のインテリアを取り入れたレトロな雰囲気のバー、近未来的な装飾を施したモダンなバーなど、テーマも個性も色とりどりな洗練された洒脱なバーがたくさんあります。
 

昨今のカクテルブームを反映して、一流バーテンダーの名前を冠したバーや、「ミクソロジスト」と呼ばれる芸術的なカクテルを生み出すバーも増えてきました。世界的なウィスキームーブメントを牽引するウィスキーカクテルの専門店や、クラフトビールに特化したバーもロンドンの魅力。ロンドンっ子は昔ながらの地元のパブと、特別な時間を提供するバーを上手に使い分けているのです。
 

 ロンドンの最新バー事情についてはまたの機会にお話ししますが、今回はレストラン編に続き、アート愛好家のためのバーを幾つかご紹介しましょう。

 

 レストラン編でも取り上げた英国を代表する現代アートの巨匠、ダミアン・ハーストの作品は、2015年に高級街・メイフェアに鳴り物入りでオープンしたバー&レストラン、Sexy Fish(セクシー・フィッシュ)でもお目にかかることができます。豪華絢爛で煌びやかなインテリアのセクシー・フィッシュは、モダンチャイニーズのシーフード料理を楽しめるレストラン。オープン以来、国内外のセレブリティ御用達のホットスポットとして注目を集めてきましたが、バーとしても高い人気を誇ります。深海をテーマにしたインテリアのバーカウンターには、ハーストの作による人魚のブロンズ像が鎮座し、まるでミッドセンチュリーの竜宮城のような雰囲気を醸し出しています。壁を飾るのは、スペイン北部バスク地方・ビルバオにある、グッゲンハイム美術館をデザインしたことで有名な建築界の巨匠、フランク・ゲーリーが手掛けた、鏡を立体的に組み合わせたワニのオブジェ。幻想的な空間で味わうオリジナルカクテルも、どれも意匠を凝らしたものばかりです。

 

 

 一方で、クラシックなホテルのバーも積極的にモダンアートを取り入れています。同じくメイフェア地区で屈指の高級ホテルとして歴史を誇る、1837年創業のブラウンズ・ホテルのメインバー、The Donovan Bar(ドノヴァン・バー)は、1960年代を席巻したファッションフォトグラファー、テレンス・ドノヴァンをテーマにしたクラシックモダンなバー。その名の通りドノヴァンの写真作品がずらりと展示されています。ツイッギーやダイアナ元妃、サッチャー元首相のポートレートなども撮影したドノヴァンの、’60年以降のロンドンのカルチャーシーンを切り取った作品が一堂に会し、見応え十分です。
 

 なお、このドノヴァン・バーのヘッドバーテンダーは、究極のドライマティーニを完成させたことで著名なサルバドーレ・カラブレーゼ氏。英国バーテンダー組合の代表を務めたこともある世界トップクラスのバーテンダーで、世界でもっとも高額なカクテル(お値段1杯5千500ポンド!)「サルバドーレの伝説」を創り上げ、ギネス記録にも認定されたそうです(なんでも1778年産のコニャック、1770年産のキュンメルリキュール、1860年産のオレンジキュラソー、1900年代産のアンゴスチュラビターズを使用しているとのこと)。

ロンドンのバー Donovan

「ドノヴァン・バー」の瀟洒なインテリア

 

ロンドンのバーDonovan

ツイッギーの写真の前でポーズを取るヘッドバーテンダーのサルバドーレ・カラブレーゼ氏

 

 ちなみにブラウンズ・ホテルは、アガサ・クリスティがここに滞在して『バートラム・ホテルにて』を書き上げたことで、ミステリーファンにも人気の高いホテルです。グラハム・ベルが英国で初めて電話での通話を成功させた場所でもあります。
 

ダイニングルームCharlie’s(チャーリーズ)にも、ロンドンのセントラル・セント・マーティンズ美術大学を卒業したアイスランド人アーティスト、クリスティヤーナ・S. ウィリアムズのアート作品と、ボタニカルな壁紙が取り入れられ、新進気鋭のアーティストであるウィリアムズの世界観が堪能できる空間になっています。
 

 なお、英国屈指の人気を誇るブラウンズ・ホテルのアフタヌーンティーは、筆者のイチオシ。ロンドンで最も美味しくて伝統的なアフタヌーンティーが味わえますので、こちらもぜひチェックしてみてください。

ロンドンのバー

クリスティヤーナ・S. ウィリアムズ作のアートワークと
 

ロンドンのバーCharlies

壁紙が印象的な「チャーリーズ」

 

 魅力的で個性的なバーにとって、インテリアデザインもアート作品そのものだったりします。日本でも人気の高い英国人インテリアデザイナー/プロダクトデザイナー、トム・ディクソンも飲食業界と関わりが深く、これまでに王立芸術院のレストランやジェイミー・オリバーのレストランなどを手掛けてきました。近年では、再開発が進むテムズ川南岸のサウスバンク地区にオープンしたSea Containers Hotel(シー・コンテナーズ・ホテル)の内装を担当。ヨーロッパを代表する究極のモダンアートホテルとして注目を集めた、St. Martin’s Lane(セント・マーティンズ・レーン)やSanderson(サンダーソン)と同じモルガングループの最新ホテルです。元々海洋輸送会社のオフィスだったという建物を改装し、至るところに航海をテーマにしたインテリアが散りばめられています。中でも、1920年代の豪華客船をモチーフにしたバー、Lyaness(ライアネス)はディクソンのトレードマークである真鍮製のテーブルやライト、幾何学的なデザインのミラーなどで統一された、美しい空間です。テート・モダンやシェイクスピアのグローブ座から歩いてすぐの場所にあり、アート探訪の後にお酒を楽しむには最高の立地条件です。

ロンドンのバーLyaness

フューチャリスティックレトロな「ライアネス」のインテリアデザイン

ロンドンのバーLyaness

 

 トム・ディクソンの世界観をより堪能したいなら、キングス・クロスのコール・ドロップ・ヤードにオープンしたレストラン&バー、Coal Office(コール・オフィス)もおすすめです。ソーホーにあるイスラエル料理の名店Palomar(パロマー)や、バルバリア海岸地方料理のThe Barbary(バーバリー)など、予約の取れない人気店を輩出してきたイスラエル人シェフ、アサフ・グラニット氏とタッグを組んだ最新の人気店です。近未来的な金属の無機物感と、流線型のデザインがもたらす温もりが共存するインテリアはディクソンの面目躍如といったところですが、特筆すべきは食器もディクソンのデザインだというところ。特別な空間で、絶品のモダンイスラエル料理が味わえます。
 

 ちなみに、コール・オフィスのあるコール・ドロップ・ヤードは、キングス・クロス駅の北側一体を再開発した話題のスポットです。セントラル・セント・マーティンズ美術大学の周辺に、リージェント運河を囲むようにさまざまなブランドショップやレストラン、カフェ、バーが軒を連ね、ロンドン最新のショッピングディストリクトへと成長しつつあります。散歩がてら、ぜひ訪れたいエリアです。
 

   また、トム・ディクソンは現在進行中のロンドン南東部・グリニッジの再開発プロジェクトにも関わっています。グリニッジ半島と名付けられたエリアにあるペニンシュラ・スクエアで、テムズ川を含むロンドンの景色が360度楽しめるバー、Craft(クラフト)を手掛けました。このバーでは、地元産を含むレアなクラフトビールを楽しむことができます。

 

 さらに、食の世界でも彼の活躍はとどまることを知りません。ロンドン西部・ポートベローの北端で、英国若手シェフの旗手、スティービー・パール氏と組んでDock Kitchen(ドック・キッチン)という実験的なフュージョン料理レストランを経営していたディクソンが、現在このリージェント運河沿いの同じ場所に、パール氏との新たな野外レストランの準備を進めているということです。

 このJOY(ジョイ)という複合施設では、現在英国内の生産農家と契約し、安全でサステナブルな食材や総菜を扱うショップをすでにオープンしているとのこと。英国では環境に配慮した食や衣類に対する意識が年々高まっており、こうした取り組みにも注目したいところです。

 

最後に、英国ならではのアートを楽しめるバーをもうひとつだけご紹介しましょう。流行震源地・ショーディッチにある老舗のナイトクラブ、Cargo(カーゴ)です。週末にはクラブイベントや音楽ライブで賑わうこの店も、日中はまったりとした時間を過ごせるカフェバーとして営業しています。中庭でお目にかかれるのは、バンクシーのグラフィティ。ロンドンではほとんど消滅してしまったバンクシーのグラフィティの中で、完璧な状態で残されている数少ないもののひとつ。お店の奥にも、もう1枚グラフィティが保存さえています(バンクシーのグラフィティ探訪については、近いうちにブリストル編でお伝えしたいと思います)。

 

ロンドンのバー Cargo

 

「カーゴ」の中庭に保存されているバンクシーのグラフィティ

 

 

文/長谷川友美

 

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