世界遺産バース: 琥珀色にかがやくジョージアン・パラダイス 

by 江國まゆ
Friday 26 February 2021

「ロンドン以外で暮らしてみたい英国の街」マイランキング、ナンバーワン!(笑)のバースへようこそ!

 

バースの魅力? それは街そのもの。一度訪れたらその麗しさの虜になり、またいつか戻ってきたいと願ってしまう、温かなアンバー色に輝く街。いくえにも折り重なる歴史の厚みと、粒ぞろいの美しい建築が語りかけてくる文化的な華やぎや気品、ゆったりとした鷹揚な空気は、なかなか他の都市で味わえるものではありません。いつしかここは、ユネスコの世界遺産にも認定されました。

 

ロンドンからは西へ向かって電車でほんの1時間半。コッツウォルズ地方の南端に位置する都市でもあり、ここを拠点に他のヴィレッジに足をのばすと、忘れられない旅になることでしょう。

 

エイヴォン川のほとりを、ゆるりと楽しむ

バース・スパ駅で電車を降りたなら、横断歩道を渡ってそのまま真っすぐ歩けば5分ほどで市の中心部に到着します。見上げるとまず目に入るのは、威風堂々としたバース寺院。そして右手にはブリストル海峡へと注ぐエイヴォン川。まずはこの川の美しさの洗礼を受けてください。

 

川に架かっている趣ある眼鏡橋は、パルトニー橋です。そのたもとから下に降りて、川のほとりをぜひ散歩してみてください。橋を含めたこの辺りの建築は18世紀のジョージ王朝時代に流行った古代ローマ風のスタイルで統一されているので、列柱(コロネード)が並ぶ壮観な景色に見惚れてしまいます。

バースの風景

奥にパルトニー橋が見えています。端から端までお店が並ぶスタイルの橋は世界に4つしかなく、18世紀後半にできたパルトニー橋はその一つ。

 

ロンドンバースの風景

川の周りの建築も見どころ。

 

バースの風景

優雅な弧を描く段差がつけられた堰は、バースの顔。これが本当に美しくて心奪われるのです。

 

川の中には、流れをデザインするように形作られた半オーバル型の堰(段差)があり、小さな滝のように見えてエレガントの一言。1603 年にはすでに造られており、建造目的はもちろん街を洪水から守るためですが・・・このデザインを考えた人は天才! エイヴォン川を見ると「あぁバースに戻って来たなぁ」と思う私。いつまでも眺めていたい思い入れのある風景の一つです。

 

それからクルーズ船に乗って川岸の風景を楽しむのもおすすめ。川下りはいつでも新鮮な目線で風景を切り取るチャンスでもありますよね。

バースの風景

 

バースの風景

1時間くらいのクルーズで優雅に景色を堪能!
 

女神スリス、ローマ人の湯浴み、ヤコブの梯子

川を十分に楽しんだら、次は街の中心広場へ急ぎましょう。
 

バースの街並みはコッツウォルズ特有のハチミツ色の石灰岩で造られたジョージアン建築が有名ですが、地元で産出されるバース・ストーンは色が若干濃いめの、琥珀色と呼びたくなるような温かい色合いが特徴です。だからこの街では、斜めから差す陽に照らし出される朝方、そして夕方が、魔法の時間。

さぁ街の広場にはたいてい見どころが固まっています。まずは教会。ここにも壮麗なゴシック建築の聖堂、バース寺院がそびえ立っています。そして街の名前の由来にもなっている、有名な古代ローマ浴場跡も広場に面しており、その深い歴史を思い知らされるのです。

 

バースの風景

広場ではバスキングや大道芸が見られます。奥に見えているのがバース寺院。

 

都市としてのバースの歴史は、1世紀に遡ります。ローマ人がブリテン島へ侵攻してきてすぐ、コッツウォルズ丘陵にもローマ居住地区がポツポツできるのですが、お風呂好きなローマ人たちは嬉々として温泉が出るバースを保養地として開発し、大勢が暮らすようになりました。でも実は、それ以前から温泉の恩恵に預かっていたのが、ケルトの人々です。

 

ケルト民族が祀る「スリス」という土地の女神を、ローマ人たちはギリシャ神話の女神ミネルヴァと同一視し、「スリス・ミネルヴァ」という習合神として祀り、この土地にアクア・スリス(スリスの水)という美しい名を付けました。現在、ミュージアムとして公開されているローマ浴場跡には、その神殿跡や遺物も展示されています。現地の神を切り捨てず、土地の人も巻き込んで統治したことが、ローマ繁栄の大きなポイントだったのかもしれませんね。

 

あぶそる〜とロンドン

ローマ浴場跡に再建された、18世紀ジョージ王朝時代のスパ施設。ローマ人のコスチュームを身につけたスタッフさんが場を盛り上げてくれます。

ローマ浴場博物館は、超絶に充実している「バースに来たら必訪」級のエンターテインメント施設です。面白すぎて私も何度入館したか覚えていないほど。日本語の音声ガイドがあるので、より詳しくローマ人の水浴の習慣について理解することができますし、集中して回っていると2000年前にタイムスリップする感覚を味わえるのが、主なオススメの理由です。

この温泉ミュージアムで生暖かい蒸気を含んだ空気に触れていると、日本人なら必ず「あぁ温泉に入りたい……」と心底思うはずなんですよね(笑)。今でもミネラルたっぷり46度の豊富な温泉水を供給し続けてくれているのですから。どうしても入りたい衝動に駆られたら、近くにある源泉を利用した日帰りスパ施設「サーメ・バース・スパ」へ、またはそのお隣に2015年にオープンした英国で唯一の天然温泉付きの五つ星ホテル「ゲインズボロー・バース・スパ」へぜひ。ゲインズボローは食事が美味しいと評判! 旅をひときわゴージャスに盛り上げてくれるはずです。

 

あぶそる〜とロンドン

ローマの将軍たちが見下ろすグレート・バス!

 

さて、アクア・スリスからローマ人が去った5世紀以降、 サクソン人がバースと改名し、町の主導権を握ります。羊毛産業で栄えた中世を経て、ふたたび温泉が脚光を浴びるようになってきたのが、18世紀。王侯貴族たちが温泉リゾートとして注目したからですね。バースが「ヨーロッパ有数の優美な都市」と讃えられる礎となった都市造りがこの頃、才能ある建築家たちによって行われました。バース・ストーンはその最高の材料に。

 

これまで数え切れないほどバースを訪れてきて、今回改めて気づいたのは古代ローマとジョージ王朝の間接的なリンクです。18世紀の都市計画で生まれたバースの街並みが、古代ローマ人が駐屯していたことに直接結び付けられるわけではなく、18世紀頃にたまたまポンペイをはじめイタリアの古代遺跡発掘のニュースが相次いだことで、イオニア式の古典建築デザインが大ブームになったのです。当時の建築家たちはごぞってそれを採り入れた……大陸的な雰囲気を色濃く感じるのは、このためなのですね。有名なロイヤル・クレセントなどは、その代表的な建築です。

 

バースの風景

三日月型の曲線が美しいロイヤル・クレセント。保養に訪れる貴族のために設計された豪華なテラスハウスです。

 

一方、市内では数少ない中世のゴシック建築であるバース寺院も、トップ5に入る見どころ。現在の建物は15世紀末、チューダー朝時代に完成しました。しかし半世紀後にはご多聞にもれずヘンリー8世の宗教改革によって閉鎖されて荒廃。17世紀初めに修復がようやく終わった頃、寺院はバース市が管理するようになっていました。

 

バースの風景

バース寺院は塔が高いので街のどこからでも見えます。7世紀よりも前から僧院があったと言われている場所。

 

聖堂内の見どころは、ハッとするような繊細な天井。床から垂直に伸びた支柱のてっぺんが石の扇となり、花開くような形にデザインされています。そして私のおすすめは、広場に面した西ファサードの両側でハシゴを使ってえっちらおっちら天に昇ったり降りたりしている天使の彫刻群ですね。彫刻モチーフとしてはたいへん珍しく、 それぞれの天使の様子も面白いので、望遠カメラを持っていたらぜひ覗いてみてください。

 

あぶそる〜とロンドン

 

バースの風景

当時の司教の夢に出てきたという光景。「ヤコブの梯子」と呼ばれる旧約聖書の一場面です。

 

ジェーン・オースティンの足跡、街でいちばん古いパン屋さん

 

バースが華やいだ印象を与えるのは、街並みそのものに理由があるに違いありませんが、そこに住む上流階級の人々の存在も欠かせません。ジョージ王朝時代に生きた小説家、ジェーン・オースティンも5年ほどここで暮らしました。彼女が家族とともに引っ越してきたのは20代半ばの頃です。代表作『高慢と偏見』など英国の中流・上流家庭のドラマや恋愛模様がお好きなら、ぜひジェーン・オースティン・センターを訪れてみてください。当時の生活などがうかがえる興味深い文化施設としてもおすすめです。

 

バースの風景

街の中心部にあるので簡単にアクセスできます。

 

3階ではコリン・ファース扮するミスター・ダーシーの肖像画が飾られたリージェンシー・ティー・ルームがお待ちかね。ジョージ王朝時代の情緒をたっぷりと感じられるお部屋で、特別ブレンドの紅茶や簡単なアフタヌーン・ティーもいただけるのでぜひ試してみてくださいね。1階のギフト・ショップにはダーシー・グッズがたくさん!  あ、もちろん他にもいろいろありますけれど。

 

アフタヌーンティー

 

ジェーンオースティンハウス

 

お土産ならバース名物のバース・バンズをお忘れなく。バース・バンズはもともとバースの開業医が消化器官を整えると言われているキャラウェイ・シードをたっぷり入れた栄養価の高いパンとして考案したものですが、1851年のロンドン万博をさかいに、ドライ・フルーツ入りの簡易バージョンに生まれ変わってこちらも大人気になったとか。そしてバースに伝わるもう一つの有名なパンが、街で一番古いベーカリー「Sally Lunn / サリー・ラン」のバンズです。ふわふわのブリオッシュのようなこちらのパンもバース・バンズの一種ですが、巨大です!

 

あぶそる〜とロンドン

 

サリー・ランは街で一番古い家屋とも言われています。

サリーラン

 

いつも混んでいますが、ティールームは3階まであるので少し並べばすぐに入れます。いちばん人気はクロテッド・クリーム&ジャムなのですが、オススメは風味豊かなシナモン・バターか、フレッシュなレモン・カード。ランチ時間ならベーコンがのったウェルシュ・レアビットなどもおすすめ。地下が昔のキッチンの様子を再現した小さなベーカリー・ミュージアム兼ショップになっていて、直径約16センチの巨大バンズを購入し、自宅で楽しむことができます。箱も可愛いのでお土産に最適なのです。

 

サリーラン

300年前にフランス人女性が創り出したブリオッシュのようなパン。自家製レモン・カードが美味しい!

 

富豪の隠遁生活、歪みのあるイングリッシュ・ティールーム

 

バースは1泊しても見どころがたくさんある大きな街なので、日帰りよりも宿泊されることを断然おすすめします。ゆったりした行程を組んで、郊外のランドマークにも行ってみませんか?

 

中心部Milsom Streetにあるバス停から出ている31番バスで北へ向かって10分ほど坂を上ると、18世紀の著名な文化人だったウィリアム・ベックフォードが晩年を過ごした塔、ベックフォード・タワーに到着します。

 

バース

高台にある上に、この塔の高さ!

 

このベックフォードさん、ロンドン市長を2度も務めた政治家で実業家の父から二十歳で巨万の富を相続し、著述、美術、建築、音楽などに才能を発揮し、当時タブー視されていた同性愛スキャンダルや数多くの旅などを経験しつつやりたい放題の趣味人生を送るのですが、ついに60代後半でこの塔を建築して隠遁生活に入ります。

 

死後、娘さんのハミルトン公爵夫人が父の収集品の一部をのぞいて塔と敷地を僧院に寄付したため、現在はガーデンが墓地に変わり、1階はミュージアムとして公開されています。そして不思議な様式美のある螺旋階段を上にのぼっていくと……この景色が目に飛び込んできます! 

 

バース

絶景ですね〜。

 

墓地の散策もなかなか興味深いですし、バースのパノラマを目に焼き付けたい方にはオススメの名所。ペダンティックでちょっぴり陰のある富豪の晩年に思いを馳せてみるのも一興なのでは?

 

次はバース・スパ駅から電車に乗って、隣町のBradford on Avon へ行ってみましょう! ほんの15分で到着する小さな町には、1502年からそこに佇んでいる古〜いティールーム、Bridge Tea Roomsがあります。ここは歴史の趣を感じられるだけでなく、スコーンもケーキ類も絶品。特にキーライム・パイは名物なので外さないでくださいね。

 

Bath Bridge tea rooms

味があるでしょう? 英国のトップ・ティー・ルームに輝いたスペシャルな場所です。

 

ブリッジティールーム

スタッフの皆さんも白いレース・エプロンで迎えてくれますよ。

 

たっぷりバースの街と近郊、楽しんでいただけたでしょうか? え? ホテルのおすすめはないのかって?  もちろんあります!   バース市街は、 個人的には北寄りの住宅エリアに通好みの素敵なカフェやレストラン、ショップが固まっていると思っています。そんな魅力的な場所にアクセスするのにちょうど良いのが、4つ星のブティック・ホテル、Queensberry Hotel

 

バース

落ち着いたラウンジ。お酒が進みそう。

 

バース

お部屋はとても良かったです! 心からリフレッシュされました。

 

タウンハウスの一つを利用したホテルは全29室。クラシック・ルームは145ポンドからとお手頃価格。そしてここのOlive Tree Restaurantは、バースで唯一のミシュラン1つ星のレストランなので、旅にグルメを求める方にもぴったり。ディナーはもちろん、朝食も地元の食材を使って丁寧に作られた極上の味です。ここを拠点にコッツウォルズ巡りをしてみるとますます素敵な旅になりそうですね。

 

バース

春夏はガーデンでティー&ケーキが最高。

 

何度訪れても飽きない街、バース。石造りの家が並ぶ郷愁のジョージアン・タウンであり、ロンドンからのアクセス、また他の町や村への連絡も良好です。特別な磁力に惹きつけられ……またすぐに訪れてしまいそう。

 

All photos  ©︎ Mayu Ekuni

 

・・・・・・・・・・・

●バースは南コッツウォルズの拠点となる都市です。

●ロンドン・パディントン駅から電車で1時間半。

●バースから車なら人気ヴィレッジ Castle Combeまで30分で到着。

●今、英国で一番ホットな地方都市、ブリストルまで電車で1時間。

Author

江國まゆ

あぶそる〜とロンドン編集長。東京で書籍編集・雑誌編集・ライターを経て1998年渡英。英系広告代理店にて10年に渡り各種媒体の日本語コピーライティングを担当した。2009年からフリーランスとなり、日本のメディアに記事を寄稿中。2014年にイギリス情報ウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン / Absolute London」を創設。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)『ロンドンでしたい100のこと〜大好きな街を暮らすように楽しむ旅』(自由国民社)がある。www.absolute-london.co.uk

あぶそる〜とロンドン | View all author blogs

Latest Blogs

文化を通して英国と日本の関係を深めるプログラム「#CultureConnectsUs」

オンライン・フェスティバル 「#CultureConnectsUs」
文化を通して英国と日本の関係を深めるプログラム「#CultureConnectsUs」

スーパーで買えるとっておきの英国みやげ 10選!王室御用達も

今スーパーで買える英国みやげ 10選
スーパーで買えるとっておきの英国みやげ 10選!王室御用達も

アートと食の美味しい関係 〜バー編〜

ロンドンのバー
アートと食の美味しい関係 〜バー編〜

アートと食の美味しい関係 〜レストラン編〜

ギャラリースケッチ
アートと食の美味しい関係 〜レストラン編〜

ハイグローヴ チャールズ皇太子の心の中をのぞきこむ私的な庭

Highgrove-Sundial Garden
ハイグローヴ チャールズ皇太子の心の中をのぞきこむ私的な庭

Register for our newsletter