馬と過ごすコッツウォルズの優しい休日

by 江國まゆ
Thursday 29 April 2021

競馬や乗馬のカルチャーはもちろん、騎馬警官に女王陛下の衛兵隊まで、英国では日本よりも、より身近に馬が存在します。イングランドの田舎に行くと、いまでも古代に描かれた馬のかたちの地上絵などが残されていますし、英国の王様は代々競馬に夢中でした。ヴィクトリア女王の子息だったエドワード7世にいたっては、王太子時代から競馬に明け暮れて、馬主になるだけでは飽き足らず、競走馬の生産まで手がけていました。その情熱はみのり、現役国王として数々の有名なレースで優勝して国民からも大人気だったようですよ。

 

日本にも「人馬一体」という言葉がありますが、馬に乗る人に聞くと、馬はとても感受性が強く、人の気持ちをよく理解するそうです。人語を解すると言うわけではないでしょうが、おおよその性格を理解して人を識別するのだそうです。人馬は「一体」になることができる、ということなんですね。

 

英国では馬を持っている都会人も多くいます。そういう人は田舎に所有している馬に会うために休日を使います。私も取材でよく訪れるコッツウォルズの田舎などは、1日のうちで馬を見ない日はありません。地元の乗馬愛好家たちは、自宅敷地内の厩舎にいる馬に乗って、ふらりと村に散歩に出かけたりします。本当に馬文化が根付いている国なんだなぁと、改めて感じ入ります。路上で馬に出会うと、心がパッと明るくなりますよね。優しい瞳と美しく大きな身体。馬って本当に特別な存在です。

 

典型的な英国の田園風景です。

典型的な英国の田園風景です。

 

コッツウォルズの北端で親子が乗馬の稽古。

コッツウォルズの北端で親子が乗馬の稽古。

 

記念撮影も許してくれました!

記念撮影も許してくれました!

 

ブロードウェイのヴィレッジで出会った親子。

ブロードウェイのヴィレッジで出会った親子。

 

スタントン村で乗馬の練習をする人。

スタントン村で乗馬の練習をする人。

 

まずは乗馬で馬に触れる

 

そこでご提案したいのが、馬と親しむ英国の休暇です!  観光だけでなくテーマのある旅が流行っていますが、こんなに心安らぐ特別な休暇もないのではないでしょうか。英国では乗馬クラブが各地にあり、場所によっては会員でなくても事前に申し込んでおけば参加したり見学したりできます。半日ゆっくり時間をとって、馬と親しみ日頃のストレスを緩めてみてはいかがでしょう?

 

私のオススメは、コッツウォルズ北部のスタントンというヴィレッジにある乗馬センター、Cotswolds Ridingです。ここは地元生まれのジル・カレンザさんという乗馬マスターが45年以上前に創業した家族経営の施設で、子馬を含め約50頭のよく訓練された馬たちが勢ぞろいし、超ビギナーから上級者、子どもたちまでどんなレベルにも対応しています。スタントン村はコッツウォルズでも地元の人たちにこよなく愛される古いヴィレッジの一つ。それぞれの建物が歴史を語りかけてくるような趣ある村で、私も大好き。コッツウォルズという田舎の美しさに触れることが旅の主目的なら、ここは最高の場所です!  村歩きも含めて訪れてみてくださいね。

 

17世紀の建物を利用した敷地は馬でいっぱい!

17世紀の建物を利用した敷地は馬でいっぱい!

 

厩舎では笑顔の馬たちがスタンばってます。

厩舎では笑顔の馬たちがスタンばってます。

 

興味深そうな視線を投げてよこしてますね。

興味深そうな視線を投げてよこしてますね。

 

ふさわしい服装をしてくれば、専用の帽子やプロテクターは貸出可能。

ふさわしい服装をしてくれば、専用の帽子やプロテクターは貸出可能。

 

レッスン直後の女性。ポーズをとってくださいました。

レッスン直後の女性。ポーズをとってくださいました。

 

乗馬は30分からレッスン可能で、予約はウェブサイトからできます。また事前に予約すればレッスンの見学や、厩舎の見学だけも受け付けてくれます。英語なんかできなくてもOK!  馬に親しみ、スペシャルな時間を過ごすという意味では、これ以上願ったり叶ったりの環境はないなって思います。

 

上級者は敷地外に出て村を周回する「hacking」を楽しむことができます。気持ち良さそう!

上級者は敷地外に出て村を周回する「hacking」を楽しむことができます。気持ち良さそう!

 

英国では、馬が通る場所にはそれを知らせる道路標識があったりします。「馬注意」みたいな標識です。基本的に馬は自動車道を歩くことができるのですが、優先されるのは車よりも馬! 乗馬中の人馬が通っていたら、車は徐行して馬を驚かさないようにしないといけないんです。英国の田舎ならではの光景ですよね。

 

王様のスポーツ、ポロに挑戦!

 

「乗馬は日本でも経験がありますの。もっと上級者向けの体験はございます?」という方には、 ぐっと専門性が上がる乗馬スポーツ「ポロ」(!)をおすすめしましょう。

 

馬にまたがって球を打つスポーツ、ポロは世界最古類のボール競技と言われ、紀元前のアラブやモンゴル、中国が発祥と言われています。英国に輸入されたのは19世紀頃。ルールを作るのが得意なイギリス人のこと、あっという間に近代ポロの礎を築いてしまいました。ポロはどの国でも伝統的に王侯貴族や富裕層の間でプレイされていたことから「王様のスポーツ」と呼ばれるようになります。

 

ポロは4名が1チームとなり、2チームが相手方のゴール目がけて球を打ち込むスポーツ。競技時間は約1時間から1時間半。通常はチャッカーと呼ばれる7分単位のマッチが6回で構成されるのですが、1頭の馬を連続したチャッカーに出場させることはできないので、1試合に馬は最低でも2頭は必要になります!  それで馬を世話したりトレーニングしたりする「groom」と呼ばれる個人トレーナーが必要となってくるのですね。

 

現在のところ英国全土には約70のポロ・クラブがあり、2600名を超えるメンバーがいるそうです。え? 素人がポロを体験できるのか、ですか? ご安心ください。馬をはじめヘルメットや木製スティックまで、訪れるだけでポロをプレイするのに必要な全てのものが用意されている一般向け体験レッスンを提供している場所もあるのです!

 

超ビギナーたちの練習風景。馬も寝てますね(笑)。

超ビギナーたちの練習風景。馬も寝てますね(笑)。

 

それは1992年に創設されたコッツウォルズ中部にあるロングドール・ポロ・クラブ。ポロ人材を育て、広く一般の人びとにポロを知ってもらうことに尽力しているフレンドリーなクラブなのです。英王室のウィリアム王子とヘンリー王子も、若かりし頃はこのクラブでポロの練習に励み、今現在も彼ら所有の馬がクラブ内で世話されているそう。クラブ全体としては約100頭の馬たちがいるそうです。実は私も「ロイヤルな英国」を体験する取材でお邪魔させてもらったことがあり、ポロ体験をしてしまいました(!)

 

超ビギナーがまず教わるのは、木馬に股がっての打球練習。「マレット」と呼ばれるスティックは木製で球は固いので当たったときの手への衝撃は大きいのですが、タイミングさえ合わせれば比較的簡単に打つことができます。本物の馬にまたがったら、とにかく球を探して進んでいき、打っては馬を進ませます。遠くの球に手をのばして打つ時は、馬に身を任せてバランスをとることになります。そうです、馬への全幅の信頼なくしてありえないスポーツなんですね。

馬と過ごすコッツウォルズの優しい休日

ポロでは馬といかに一心同体で動くかがキーになる。それを実感した体験でもありました。馬は人からのサインを読み取ると同時に、微細な動きや気持ちさえ感じ取って瞬発的に身体を動かしています。馬と人、双方向への信頼が大きく影響するスポーツなのだと肌で感じました。上流階級のスポーツと見なされがちなポロですが、実際は様々なバックグランドの人びとがゲームを楽しんでいます。このロングドール・ポロ・クラブなら、馬を所有していなくても体験することができるのでおすすめです!

 

英国式に競馬を楽しむ

 

さぁ、馬と親しむ旅。最後はいよいよ競馬です。

 

英国競馬というと夏のロイヤル・アスコットを思い浮かべる方が多いと思いますが、障害レースの本命レースとして知られるチェルトナムの「ザ・フェスティバル」も、ロイヤル・アスコットに並ぶ華やかな競馬イベントとして知られています。チェルトナムはコッツウォルズ観光の拠点になる都市。今年も3月16日から19日まで開催されました!

 

チェルトナム競馬場です!

チェルトナム競馬場です!

 

英国には何世紀にも渡る競馬の歴史があり、競馬を今のような形に整えた世界のリーダー的存在でもあります。アスコット、チェルトナム以外にも、エプソム、ニューマーケット、エイントリーなどなど、全国に大きな競馬場をたくさん擁しています。中でもチェルトナム競馬場は世界的にも「美しい」レース場として名高い。その理由は・・・周囲を取り囲むコッツウォルズ丘陵の豊かな眺め。またそこからすり鉢状にうねる緑のレース場そのものの潔さ。ずっと眺めていたくなる、瑞々しい風景です。

 

これは貴賓席からの眺め。王室メンバーが訪れた際はここに通されます。

これは貴賓席からの眺め。王室メンバーが訪れた際はここに通されます。

 

競馬場の入場料はイベントによって異なりますが、事前にオンライン購入することができます。競馬場に到着したら・・・せっかくなので賭けてみましょう!  予想には当日の馬の状態を観察することも大切です。レース直前に馬たちの様子がよく見えるよう、パドックでパレードする時間があるのはご存知ですよね。これという馬に見当をつけたら、さぁオッズを見ながら馬券売り場へ急ぎましょう。5ポンドくらいからかけられますよ。

 

屋内にも馬券売り場はありますが、外でも売ってます。

屋内にも馬券売り場はありますが、外でも売ってます。

 

観客の大半は英国内とアイルランドから来るようですが、アスコットやチェルトナム、ダービーなどビッグ・イベントになるとヨーロッパ各国からのお客さんも多くなるようです。私が訪れたのはチェルトナム競馬場のザ・フェスティバルに次ぐビッグ・イベント、ノーベンバー・ミーティングの初日でした。お天気にお恵まれ、ともかく気持ち良い1日のスタートです!

 

レース前の様子です!

レース前の様子です!

 

パドックを出場馬が練り歩きます。

パドックを出場馬が練り歩きます。

 

観客はいたるところに。お祭りの雰囲気も味わえて一石二鳥。

観客はいたるところに。お祭りの雰囲気も味わえて一石二鳥。

 

ドレスコードはないのですが、ハイファッションの方が目立ちました。

ドレスコードはないのですが、ハイファッションの方が目立ちました。

 

レースがスタート! 馬の駆ける音が耳に心地よい。

レースがスタート! 馬の駆ける音が耳に心地よい。

 

1レース終わり、また次のレースがすぐ始まります。

1レース終わり、また次のレースがすぐ始まります。

 

レースの合間に騎手が馬主や関係者とおしゃべりをするためにパドックにやってきます。

レースの合間に騎手が馬主や関係者とおしゃべりをするためにパドックにやってきます。

 

英国は動物愛護精神が強いことでも知られていますよね。競馬業界全体で1万4000頭いる馬の世話とトレーニングに関わっている人の数は、約6000人。行き届いた関係が築かれていることが分かる数字です。馬の世話をする職業も憧れるなぁ。

 

チェルトナムのザ・フェスティバルやノーベンバー・ミーティングのようなビッグ・イベントの際は、レストランやカフェ、馬関連のお店のテントが多数出て、それはもう、大変なお祭り騒ぎです。コッツウォルズの楽しみ方は色々ありますが、こうした「馬に触れる旅」をテーマに回ってみるのもおすすめ。癒されること間違いなし。世の中にホースセラピー(乗馬療法)なんてものが存在するのも、納得なのです。

 

◉乗馬体験

Cotswolds Riding at Jill Carenza Equestrian

住所:Washpool Equestrian Centre, Stanton, Worecestershire WR12 7NE

アクセス:London Paddington駅からEvesham駅まで電車で約2時間。駅から車で約20分。http://www.cotswoldsriding.co.uk

 

◉ポロ体験

Longdole Polo Club

住所:Longdole Farm, Gloucestershire GL4 8LH

アクセス:London Paddington駅からCheltenham Spa / Gloucester / Kemble駅まで電車で約2時間20分。各駅から車で約20分。

http://longdolepolo.com

 

◉競馬体験

Cheltenham Racecourse

住所: Cheltenham Racecourse, Cheltenham, Gloucestershire GL50 4SH

アクセス:London Paddington駅からCheltenham Spa駅まで電車で約2時間20分。駅から競馬場まで車で約10分。11月のノーベンバー・ミーティング、3月のフェスティバル開催期間中は毎日Cheltenham Spa駅⇔競馬場間を無料シャトルバスが運行。

 

Author

江國まゆ

あぶそる〜とロンドン編集長。東京で書籍編集・雑誌編集・ライターを経て1998年渡英。英系広告代理店にて10年に渡り各種媒体の日本語コピーライティングを担当した。2009年からフリーランスとなり、日本のメディアに記事を寄稿中。2014年にイギリス情報ウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン / Absolute London」を創設。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)『ロンドンでしたい100のこと〜大好きな街を暮らすように楽しむ旅』(自由国民社)がある。www.absolute-london.co.uk

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